【中部大学 大場裕一】光る生物の謎を解き明かす~発光生物学研究の飽くなき探求心~|取材

未知への好奇心と欲望は人類の進歩を牽引する源であり、新しい領域への興味が科学や経済など様々な文化を発展させてきました。未知なるものへの探求心と欲望が存在する限り、人間は新たな挑戦に臨み、進化し続け、持続的な革新を達成していくでしょう。

今回は、発光生物学を専門に研究されている中部大学 大場裕一教授にお話をお伺いし、光る生物の不思議を独自のアプローチで解き明かしているその飽くなき探求心に迫ってみたいと思います。

取材にご協力頂いた方
大場 裕一氏

大場 裕一(おおば ゆういち)

1970年札幌生まれ。山形県育ち。北海道大学理学部化学科卒業、国立基礎生物学研究所博士後期課程修了。博士(理学)。名古屋大学大学院生命農学研究科助教を経て、現職。

妻と小学生(男2人)の4人家族。趣味はイギリスの古着収集、蛍の登場する浮世絵の収集。

目次

発光生物DNAバーコーディングの意義と進捗

ー 発光生物DNAバーコーディングプロジェクトの目的と進捗状況についてお聞かせください。これが成功すれば、どのような科学的な洞察が得られるとお考えですか?

大場教授:発光する生物種は、一般に考えられているよりもずっと多いのです。例えば、意外に思うかもしれませんが、カタツムリやキノコ、ミミズ、ムカデ、などにも発光する種が見つかっています。

しかし、それ以上に、人類がまだ知らない発光生物が世界には多くいるはずです。それをひとつひとつ探し出し、きちんとデータベース化することで、今後、発光生物の研究者がその生物を研究できる下地作りをすること、それが「発光生物DNAバーコーディング」の役割だと考えています。

DNAバーコーディングとは生物のDNA情報を取得してライブラリー化することで、研究者が誰でもその生物を見つけ出したり種名を特定したり、研究をするにあたって最も重要な生物情報を入れられるようにすることなのです。

遺伝子ライブラリー化の研究への影響

ー 光る生きものの遺伝子情報のライブラリー化が研究に与える影響を教えてください。これが持つ可能性や未知の生態系に対する影響についてもお聞かせください。

大場教授:発光生物の光る仕組みは、私たちの気づかない部分で非常に役に立っていることはあまり知られていません。例えば、ガンができるメカニズムの解明のような基礎医学の研究でも、ターゲットとなるタンパク質や細胞を発光生物から見つかった遺伝子を使って光らせてモニターする、といった技術がよく使われているのです。

私たちの研究は、そのような基礎医学に直接貢献するわけではありませんが、そうした光を使った新しい技術の開発のシーズとなるような情報を提供するものだと考えています。

それだけではありません。環境の変化により日本各地でホタルが減ってきていることはご存知だと思います。しかし、ただ個体数が増えた減った、ではなく、将来永続的にホタルの集団が生き残れるかの指標となる遺伝的な多様性を測る必要があります。私たちの試みは、その手助けにもなると考えています。

興味深い発光生物の発見と生態系への理解について

ー これまでの発光生物の調査で特に興味深い結果が得られた地域はありますか?それがもたらす新しい発見や生態系への理解の深化についてお教えください。

大場教授:最近私たちが注目しているのがタイ王国です。タイにはまだまだ発光生物が調べられていない自然がたくさんあります。私たちは最近、タイの大学と共同で、新しい発光するカタツムリを5種見つけました。なんと足(殻から出ている体の全体を「足」といいます)の周辺が黄緑色に光るのです。

しかし、これらのカタツムリは、光るメカニズムも光の役割もまだ何もわかっていません。また、すでによく調べられている日本の中からも、新しい発光生物が見つかります。

私たちは横浜国大との共同研究で発光する新しい生物(トビムシという6本脚の節足動物)を発見しました。この発見にはこれまで蓄積していたDNAバーコーディングのデータが役に立ちました。

DNA研究の応用可能性

 発光生物のDNA研究から得られた知見が、発光生物学だけでなく他の科学分野への応用可能性についてのご見解をお聞かせください。

大場教授:上にも述べたとおり、発光生物の光はさまざまな応用可能性を秘めています。私たちは、それを自然から学ぼうとしているのです。

しかし、ホタルがあちこちで激減しているように、その自然から学ぶ対象が絶滅してしまっては、もはや学びたくても学ぶことができません。だから、発光生物を知り、発光生物を守るのも、私たちの役目だと思っています。なんて言いながら、本当は私は発光生物が好きで仕方がないのです。

生き物が光るって、端的に面白くて不思議に満ちているじゃないですか。それを知りたい、というのが一番の研究のモチベーションですね。

課題と将来の展望

ー 発光生物DNAバーコーディングにおいて直面している課題と、将来的な展望についてお聞かせください。

大場教授:とにかく発光生物を研究している人が世界に少ないんです。もはやこっちが絶滅危惧種ですよ。なんでこんなに面白い生物を研究しないのかなあと不思議なくらいですが、これを読んだ若い人たちが発光生物に興味を持ってくれて、将来一緒に研究してくれると嬉しいですね。

私はホタルの登場する浮世絵や陶磁器を趣味でコレクションしているのですが、それを見ていて思うのは、日本ほどホタルを愛する深い文化を持った国はないということです。私だけじゃなく、みんな光る生き物が好きなんですね。ですから私たちはやはり、ホタルをはじめとする発光生物の研究でも、世界をリードしていかなくちゃいけないと思うんです。

私にできることは、発光生物を知り尽くし、その不思議と魅力、そして正確な生物情報を多くの一般の人や研究者に伝えることだと考えています。

ー 本日は貴重なご見解ありがとうございました。

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