日本の企業も参入しだし、徐々に注目を集めているブロックチェーンゲーム(NFTゲーム)ですが、ここで扱われるNFTやゲーム内通貨などについて「税金面でどうなのだろう」と考えるプレイヤーが多くなってきました。
また、暗号資産(仮想通貨)はゲームをするために初めて触ったという方が多くおり、仮想通貨・NFTは資産であり税金が発生するということを知らずに通常ゲームの延長上と考えている方が見受けられます。
このような中で今回NFT、仮想通貨の税金の研究をされています東洋大学准教授 泉絢也氏に「実際はどうなのか?」という核心部分を教えていただきたいと思い取材を行いました。
下記質問は実際に本サイトへの質問やブロックチェーンゲームをプレイして感じた点などをまとめたものです。骨幹となるNFT、仮想通貨の税金の考え方を中心に回答をいただければ幸いです。
泉 絢也(いずみ じゅんや)
東洋大学法学部准教授、中央大学ビジネススクール非常勤講師。税理士。
一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会税制検討部会メンバー。
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。博士(会計学・中央大学)
国内の課税問題や各国の税制との比較など、暗号資産・NFT税制に関する書籍や論文多数。税理士として、web3やブロックチェーンゲーム等の課税関係に関する税務相談や国税庁への照会業務にも従事。
著書に『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』(中央経済社)(共著)、『仮想通貨はこう変わる!!暗号資産の法律・税務・会計』(ぎょうせい)(共著)などがある。
X(旧Twitter)ユーザー名:@taxlaw17
ブロックチェーンゲームのプレイ中に手に入れたNFT(ゲーム内イベントの景品)は資産(税金対象)となりますか?資産となる場合の条件はどのようになるでしょうか?
泉先生:個人の方が、ゲームプレイを通じて、客観的にみて経済的価値があるものを取得した場合には、所得税の課税対象になります。
国税庁も「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和5年1月)において、「私は、ブロックチェーンゲームをプレイし、その報酬として、ゲーム内通貨(トークン)を取得しました。この場合の所得税の取扱いを教えてください。」という質問に対して、次のとおり、回答しています。
「ブロックチェーンゲームで得た報酬は、原則として、所得税の課税対象となります。」
また、その理由について、次のとおり解説しています。
「所得税法における所得とは、収入等の形で新たに取得する経済的価値と解されており、ご質問の場合、収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められることから、所得税の課税対象となります。ただし、そのゲーム内通貨(トークン)が、ゲーム内でしか使用できない場合(ゲーム内の資産以外の資産と交換できない場合)には、所得税の課税対象となりません。」
反論も考えられるのですが、個人がゲームプレイを通じて取得したものが、他人に譲渡できたり、法定通貨や暗号資産など経済的価値のあるものに交換できたりするものであるならば、その取得時の時価が課税の対象になると考えておいてよいでしょう。
ブロックチェーンゲームの場合には、ゲーム内通貨やアイテムをゲーム外に(暗号資産やNFTとして)引き出し、ゲーム外の暗号資産や法定通貨と交換できることが多いでしょう。このように、ゲームとリアルの世界を行き来できるようなものであるときは、そのゲーム内通貨やアイテムの取得時に、その取得時点の価値に相当する経済的利得を得たものとして、所得税が課税される可能性が高くなります。
10万円を仮想通貨に交換してゲーム内で使うNFTを10万円分購入しました。このNFTは現状ゲーム内にあり現金にしていません。(現状するつもりもありませんが)この場合確定申告時に税金の計算は必要ですか?
泉先生:仮想通貨とNFTを等価で交換していることを前提にしますと、その交換時点における仮想通貨の含み損益(仮想通貨の購入金額とその交換時の仮想通貨の時価)を所得税の税金の計算に含める必要があります。
単に保有しているだけのNFTを時価評価して、その時価評価損益に課税するような規定はないので、ゲーム内で使うNFTそれ自体の保有に対して税金はかかりません。
ゲーム内で使う通貨をゲームに入れた場合これは購入したことになるのでしょうか。税金が発生しますか?
泉先生:ゲーム内通貨を仮想通貨で購入する場合には、上記と同じように、仮想通貨の含み損益を所得税の税金の計算に入れる必要があります。
また、ユーザーが、ゲーム内通貨として利用できる仮想通貨やNFTをゲーム外からゲーム内に入れる際に、ブロックチェーン上、仮想通貨やNFTをバーンし(流通から外す処理をし)、これに対応するゲーム内通貨をゲーム内で増加させる処理(ゲーム運営会社が管理するサーバー等で増加させる処理)をした場合には、「ブロックチェーン上の仮想通貨やNFT」と「ゲーム内通貨」とを交換しているように見えるので、上記と同じようにバーンする仮想通貨やNFTの含み損益を所得税の計算に入れる必要があるという見方があるかもしれません。
国税庁の見解は明らかではありませんが、個人的には、上記のような場合であっても、ユーザーがその仮想通貨やNFTに対する権利を手放したり、ゲーム運営会社に移転したわけではないですし、引き出し条件を満たす必要があることが通常であるものの、ユーザーはゲーム内から再びゲーム外に引き出すことも可能でしょうから、上記のゲーム内に入れる処理によって、その仮想通貨やNFTの含み損益を所得税の計算に反映させる必要はないと考えます。
ブロックチェーンゲームなどではNFTの価値が下がる(フロア価格が下がる)場合が多々あります。ブロックチェーンゲームのNFTの価値は支払った価格が基本となる場合が多いですが、この下がってしまった場合に確定申告する時に、その差額を計算することは可能でしょうか?
泉先生:NFTの価格が下がったとしても、売却等していない段階では、その評価損相当額を所得税の計算に反映させることはできません。同様に、評価益が出ていたとしても、その評価益相当額を所得税の計算に反映させることはしません。
例えばメタマスク(個人ウォレット)には仮想通貨やNFTを持っていますが、これは完全にゲームを楽しむためだけに使うので日本円や現実で使える資産にするつもりが無い場合、税金の対象となってしまうのでしょうか?
泉先生:楽しむだけに保有していたり、売却の目的で保有しているなど保有目的の有無は関係ありません。個人が仮想通貨やNFTを売却等したり、タダでもらったり(giveawayやエアドロップ)して、経済的価値のあるものを収入した場合には、基本的に所得税の対象になります。
他方、所得税では所得を10種類に区分してそれぞれに異なる計算方法等を用意しています。この場合、保有目的等が、「事業所得に該当するのか、雑所得に該当するのか、譲渡損失や不正アクセスによる損失が出た場合はどうなるのか」など税金の取扱いに影響を及ぼす可能性はあります。
今のブロックチェーンゲームは投機目的よりも、楽しむ面が多くなり、楽しむためにNFTを購入する方が増えている方向です。その中でブロックチェーンゲームをする場合は税金を考えながらやるべきでしょうか?
泉先生:所得税は、その年1年間に得た所得(原則として、「収入-必要経費」をした後、扶養控除等の所得控除等を控除したもの)を翌年の2月16日~3月15日の間に申告して、納税します。つまり、「収入」が所得計算の出発点であること、計算には「収入した時点の時価」が必要であること、他方で「申告と納税は後からやってくる」ことに注意が必要です。
ブロックチェーンゲームで得た仮想通貨やNFTは、その得た時点の時価で収入を計上することが原則なので、その時点の時価や取引内容を記録しておく必要があります。すべての取引がブロックチェーンに記録されているわけではありません。
ゲームプレイ開始前か、開始後早いうちに次の点を確認しておきましょう。
- ブロックチェーン上に取引記録が残されているのか、残されていないので自分で取引記録を残す必要があるのか。
- 取引時の仮想通貨やNFTの時価を事後的に収集することができるのか、できないので自分で時価の記録を残す必要があるのか。
後で御自身や税理士が税金の計算をする際に記録がなくて困ってしまうことがないように備えておく必要があります。
より注意しておきたいのは、翌年に申告して納税するまでの間に、暗号資産やNFTの価格が暴落することも考えられることです。納税資金の確保には常に気を付けてください。
ブロックチェーンゲームに関わるNFTや仮想通貨は今後日本で発展していく可能性はあると思いますか?また、発展するにはどのような法整備などが必要とお考えでしょうか?
泉先生:ブロックチェーンゲームが、➀ゲームの内容と②それ以外の双方の観点からより魅力的なものになり、従来のゲームにはない楽しさを提供できるようになり、そして、③仮想通貨やNFT取引を行ったことがないユーザーがもっと気軽にプレイを始めることができるような環境が整ってくると、ユーザーが自然な形で、あるいはブロックチェーンゲームであることを意識しない形で、ブロックチェーンゲームをプレイするようになり、業界が発展していくのではないかと思います。
他方、リテラシーのないユーザーが増えるわけですから、④例えば、次のようなブロックチェーンゲームの負の部分からユーザーが保護されたり、特に未成年者に対する保護が実効的になされたり、競争条件が公平となるような環境が整えられて、一般のユーザーが安心してブロックチェーンゲームをプレイできるようにならないと、継続的な発展は見込めないでしょう。
- 運営会社が詐欺をはたらく、又は先行者のみが利益を得るといったポンジ(詐欺)スキーム
- 資金力のあるユーザーが独り勝ちする仕組み(これを許容すべきかは意見が分かれるでしょう)
- 過度な投資やゲーム依存症を誘発する仕組み
ブロックチェーンゲームの場合は、一般的には、資金決済法、景品表示法、刑法(賭博罪)、著作権法などの法律における取扱いが問題になると思いますが、私は税法の専門家なのでこの点の議論は各専門家の方にお任せしたいと思います。
税法としては、国税庁からブロックチェーンゲームの取扱いに関するガイダンスが出ていますが、それを読んだだけでは取扱いが不明な点は多く残っていますので、今後、さらにガイダンスが公表されることが期待されています。
つまり、国税庁の「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和5年1月)では、次のような説明をしています。
- ブロックチェーンゲームで得た報酬は、原則として、所得税の課税対象となりますが、そのゲーム内通貨(トークン)が、ゲーム内でしか使用できない場合(ゲーム内の資産以外の資産と交換できない場合)には、所得税の課税対象となりません。
- ブロックチェーンゲームの報酬は、雑所得に区分され、収入金額から必要経費を控除して所得金額を算出します。
- ただし、ブロックチェーンゲームにおいては、ゲーム内通貨(トークン)の取得や使用が頻繁に行われ、取引の都度の評価は、煩雑と考えられることから、ゲーム内通貨(トークン)ベースで所得金額を計算し、年末に一括で評価する方法(簡便法)で雑所得の金額を計算して差し支えありません。
このように国税庁のガイダンスでは、ゲーム内通貨(トークン)の取得や使用の都度、時価評価して損益を計算するのではなく、「年中は」ゲーム内通貨(トークン)ベースで所得金額を計算し、「年末に」一括で評価するという簡便法を認めています。しかしながら、この場合のゲーム内通貨(トークン)の範囲が明らかではない(例えば、ゲーム内で通貨として使われていないNFTは含まれるのか)などの問題があります。
いずれにしても、ゲーム内で仮想通貨やNFT(に関する各権利)を取得した場合に、少なくともゲーム外に出すまでは課税されないといった課税を繰り延べるような仕組みを整備すると、プレイヤーからみて使い勝手がよいといえるでしょう。
ゲームをプレイしてゲーム内通貨やアイテムを手に入れた場合、その時点の時価で課税される、よって時価を記録しておかなければならないというのは、一般のユーザーの感覚とは合わないと思いますし、非常に面倒なので、個人のユーザーに対して適正な申告納税を期待するのは難しいでしょう。
このように考えると、上記のような課税を繰り延べる仕組みのほか(これによって、ユーザーが法律違反をしてしまう可能性を減らすことができます)、ゲーム運営会社やその他のサービス提供会社が、ゲームプレイを通じた税金の計算やその基となるデータを提供する仕組みが整備されることを期待した方がいいのかもしれません。