金融リテラシー教育は、未来の発展的な社会形成に向けて重要な役割を果たしています。この分野での先進的な知識と経験を有する駒澤大学 代田純教授に、金融リテラシー教育の波及と未来への可能性についてのご見解をお伺いしました。
日本は世界に比べて金融リテラシー教育が劣ると度々耳にしますが、金融リテラシーが個人や社会に及ぼす影響、国際的な比較、大学での教育アプローチ、テクノロジーの利活用、そして未来への展望について、代田純教授の洞察を通じて、読者の皆様の金融リテラシーの更なる飛躍に繋がることを期待しています。
代田 純(しろた じゅん)
1957年 横浜生まれ
1991年 財団法人日本証券経済研究所大阪研究所研究員
1994年 立命館大学国際関係学部助教授
2002年 駒澤大学経済学部教授(現職)
2017~19年 同大学経済学部長
2020~21年 同大学副学長
2023年~同大学院研究科委員長(現職)
著書 単著『デジタル化の金融論』2022年、学文社
共編著『デジタル化する証券市場』、2023年、金融財政事情研究会
金融リテラシーの影響と国際比較について
ー 金融リテラシーが個人や社会に与える影響について、ご見解をお聞かせください。また、日本と他国の金融リテラシーの現状についてもお聞かせください。
代田純教授:間接金融が中心であった日本では、資金運用は銀行に委任してきた。国民は銀行等に預貯金し、融資先や有価証券運用は銀行が判断してきた。こうした社会背景では、国民に金融リテラシーは育たない。個人金融資産の構成を見ても、欧米では株式や投資信託の比率が高く、家計や個人が資金運用を直接判断しており、金融リテラシーが育っている。日本では、現状は、若い世代を中心に、黎明期ではないか。
金融リテラシー教育への取り組みについて
ー 大学での金融リテラシー教育の取り組みについて、どのようなアプローチが有効だと考えますか?学生に向けた金融教育を実践的かつ効果的に進めるための提案について、ご見解をお聞かせください。
代田純教授:日本では、小学校から高校までの学校教育において、金融に関する教育はほとんど行われてこなかった。高校の公民分野での政治経済や現代社会の教科書を見ると、従来は、中央銀行の金融政策程度しか記述が無く、他方で憲法は条文ごとに逐一説明がある。
私のゼミでは、10年以上にわたり、日経ストックリーグに参加し、学生に株式投資を模擬的に経験させてきた。東京オリンピックやキャッシュレス決済増加、といったテーマを決めて、学生も関心をもって参加してきた。債券の利回りがゼロあるいはマイナスという一方で、株式の配当利回りは2~5%程度あることの意味を理解させる必要がある。
テクノロジーを活用した金融リテラシー教育の可能性
ー AIや情報テクノロジーが劇的に進化する中で、デジタルツールを活用した金融リテラシー教育の可能性についてどのようにお考えですか?
代田純教授:大学生にとって、最も身近なデジタルツールは、やはりスマホでしょう。銀行の預金や貸出(借入れ)、証券投資に関しても、スマホ銀行やスマホ証券が台頭しており、スマホによる資金運用は必須の課題となっている。スマホによる金融リテラシー教育の可能性は十分にあるし、やらねばならない課題でしょう。
金融リテラシー教育の進化と将来の展望
ー 金融環境が変化する中で、金融リテラシー教育もどのように進化していくべきだと考えますか?将来的な金融教育の展望についてお聞かせください。
代田純教授:株式投資にしても、暗号資産にしても、初心者は価格上昇時の高値で購入し、価格下落時の安値で売却し、損失を被り、資産運用から撤退することになりやすい。こうした側面を考慮すると、今後の金融リテラシー教育は、売買タイミングなど、かなり実践的な側面も含んでいく必要性があるだろう。
様々な学生への金融リテラシー教育の工夫
ー 金融リテラシーの教育では、異なる学習スタイルや様々なバックグラウンドを持つ学生に対応することが求められます。そのための工夫や配慮すべきポイントについて教えていただけますか?
代田純教授: 確かに、30年間程度、大学教員をしてきたが、授業の際に、学生から株式投資の銘柄選択や為替FXについて、質問されたことが少なからずあった。一部の学生は、積極的に資金運用しているし、金融リテラシーも高いと感じる。他方で、かなり保守的で資金運用といえば、銀行預金と考える学生もいる。初心者クラスと、上級者クラスというように、レベル分けすることも一考であろう。
ー 本日は貴重なご見解ありがとうございました。