監査不能を宣言、稀代の善人FTXバンクマンはなぜ闇堕ちしたか?

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「監査不能だよ」

破綻した米国の暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの新経営陣は9日、同取引所の「内部統制の状況」に関する中間報告書を公表した。報告書の中で、詐欺等の容疑で起訴された創業者のサム・バンクマン=フリードは「(関連会社の)アラメダは『監査不能』だよ」とうそぶくが、その真意とは?

アラメダ・リサーチは、FTX創業者のバンクマンが保有する非公開会社である。FTXの詐欺スキームにおいて、重要な役割をはたした。CEOは、バンクマンの恋人、キャロライン・エリソンが務めていた。

バンクマンが自らが興した会社を「監査不能」(unauditable)と評したのは、大手会計事務所が監査契約に応じてくれない、という意味ではない。会計記録がまったくない、というのだ。実際、FTXの新CEOで、今回の内部統制の状況に関する報告書を作成したジョン・レイは、「これほど信頼しうる財務記録を完全に欠いている会社は見たことがない」と語る。会計帳簿がないどころか、就業規則や従業員名簿すらなく、決済はチャットツールの「いいね!」でなされていたという。

ガバガバのガバナンス

このようなガバナンスがまったく欠落した会社は、まれに見かける。自分の子どもに興味を持たない親がいるように、会社の経理や総務にまったく興味を持たない経営者はいるのだ。

だが、ガバナンスを欠いたまま、時価総額320億USドル(2022年1月時点)にまで成長した会社は、FTXをおいて世界史上類をみない。320億USドル(以下、ドル)という金額は、ビットコイン一代男・エルサルバドルのブケレ大統領がこれまでに買ったビットコインが、累計でも1.13億ドルにすぎず、テポドン一代男の金正恩が子飼いのハッカー集団を駆使して世界中から盗んだ暗号資産が17億ドル(2022年)であることを考えれば、驚異的な金額だ。

関連:ビットコイン一代男|エルサルバドル大統領に学ぶ長期投資の極意
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FTXの詐欺被害者は100万人におよぶ。投資初心者はともかく、中には百戦錬磨の機関投資家や、ソフトバンクの孫正義氏のような著名人、メルセデスなどの超一流会社も含まれる。

パーフェクト超人

彼らはなぜだまされたのだろう?

バンクマンの両親は、ともにスタンフォード・ロー・スクールの教授で家柄が良い。バンクマン本人も、マサチューセッツ工科大学卒で高学歴だ。新卒時の就職企業も大手クオンツ会社のジェーンストリートで申し分がない。つまり、バンクマンは少なくとも外形的には「パーフェクト超人」なのだ。

スタートアップ起業家が出資を集めるのに役立つ「スタートアップのための経済学」については、下記の雑誌で詳述したので、興味のある人は読んでみてほしい。

参考文献

「大丈夫と思った」

バンクマンは根っからの悪人ではない。むしろ稀代の人格者として、クリプト界隈や政財界でも評判が高かった。そんな彼が闇落ちしたのはなぜだろう?

ハーバード・スタンフォード・マサチューセッツ工科大学出身の米国のエリートで、のちに逮捕された人間が共通して口にする言葉があるという。

「ちょっとだけなら大丈夫と思った」

顧客からの預り金に手をつけ、億単位の濫費・豪遊を行っていたバンクマンだが、彼もまた、最初は「ちょっとだけなら大丈夫」と思ったのではないだろうか?

参考文献

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