【立命館アジア太平洋大学 川添敬】金融リテラシー教育の波及と未来への可能性に迫る|取材

【立命館アジア太平洋大学 川添敬】金融リテラシー教育の波及と未来への可能性に迫る|取材

金融リテラシー教育は、未来の発展的な社会形成に向けて重要な役割を果たしています。この分野での先進的な知識と経験を有する立命館アジア太平洋大学国際経営学部 川添敬教授に、金融リテラシー教育の波及と未来への可能性についてのご見解をお伺いしました。

日本は世界に比べて金融リテラシー教育が劣ると度々耳にしますが、金融リテラシーが個人や社会に及ぼす影響、国際的な比較、大学での教育アプローチ、テクノロジーの利活用、そして未来への展望について、川添教授の洞察を通じて、読者の皆様の金融リテラシーの更なる飛躍に繋がることを期待しています。

取材にご協力頂いた方
川添 敬氏

川添 敬(かわぞえ さとし)

立命館アジア太平洋大学副学長、同大学国際経営学部教授。
日本銀行で36年間勤務。金融政策や国際関係、金融機関の監督などに従事。その間、ミシガン大学ロースクールにおいてLL.M(修士)を取得。研究テーマは通貨価値の維持、銀行システムに対する信認の維持、金融恐慌への対応策など。

目次

金融リテラシーの影響と国際比較について

ー 金融リテラシーが個人や社会に与える影響について、ご見解をお聞かせください。また、日本と他国の金融リテラシーの現状についてもお聞かせください。

川添教授:「金融リテラシー」とは、「お金に関するさまざまな事象を適切に理解し、解釈し、分析することにより、お金にかかわるさまざまな判断を適切に行い、それに基づいて行動できる能力」のことです。私たちの生活はお金とは切っても切れない関係にありますから、金融リテラシーは私たち一人一人がよりよい生活を送るために必要な能力といえます。さらに、経済全体をみれば、お金は私たち個人から企業や政府に流れていき、企業の生産活動や政府の政策実現に使われるものであることを考えると、私たちがお金についてよりよい行動をとれるようになれば、企業や政府により適切な形でお金が流れていくことになり、日本全体が一段と活性化していくことにつながります。

金融リテラシーは、このように社会の構成員個人だけでなく、社会全体において重要な役割を果たしているので、金融リテラシーの向上は、日本を含む世界のすべての国において課題となっています。1つ例を挙げるとすれば、日本を含む各国の中央銀行は、金融リテラシーを向上させるための情報発信を工夫しています(日本では日本銀行が「知るぽると」を主宰する金融広報中央委員会の事務局となっています)。社会は常に変化しており、これを反映して必要とされる金融リテラシーの内容も常に変化していますから、不断の努力が必要となっています。

金融リテラシー教育への取り組みについて

ー 大学での金融リテラシー教育の取り組みについて、どのようなアプローチが有効だと考えますか?学生に向けた金融教育を実践的かつ効果的に進めるための提案について、ご見解をお聞かせください。

川添教授:成人年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、すべての大学生は成人として自己の責任においてお金に関する判断を行わなければならなくなっています。実態的にも、アルバイトにかかる自由度が高まり高校生のときよりもより多額のお金を手にする機会が増えるでしょうし、両親のもとを離れて生活を始める学生も多くいます。また、多くの学生は、入学の4年後には卒業し、社会人として経済活動に参加していくことを意識するようになります。

大学生が置かれたこのような状況は、お金に関する情報を得たいという思いを強め、金融リテラシーを高めようとする教育を受ける意欲を高めるものと期待できます。大学としては、このような機会を適切にとらえて効果的な教育を行っていくことが社会の要請ではないかと思います。正課としては、商学・経済系の学部においては「金融論」といった基礎科目の内容を工夫することで対応できますし、それ以外の学部でも教養科目としてお金に関する講座を開設することができます。

いずれにしても、学生が、抽象的な知識としてではなく、先々の人生において役に立つと感じられるような内容とすることが大切です。また、正課外でも、キャリア教育の一環としてお金に関する情報の提供をメニューに加えていくことも有効な方法であると考えられます。

テクノロジーを活用した金融リテラシー教育の可能性

ー AIや情報テクノロジーが劇的に進化する中で、デジタルツールを活用した金融リテラシー教育の可能性についてどのようにお考えですか?

川添教授:金融では多くの局面において計算が必要で、その量はときとして膨大になります。これが「金融は難しい」と、少なからぬ人が考える一因であったことは否めません。デジタルツールは、そもそも計算が得意ですから、金融リテラシー教育のハードルを下げることに大きく貢献することになるでしょう。

また、教育は人々が知識を得たいと感じたときに行われると最も効果が高まりますが、デジタルツールによって可能になるオンデマンド型のリテラシー教育は、いつでも使える点で有望なツールです。その際、AIを活用して学ぶ個人個人に適した内容を提供していくことも期待されます。

金融リテラシー教育の進化と将来の展望

ー 金融環境が変化する中で、金融リテラシー教育もどのように進化していくべきだと考えますか?将来的な金融教育の展望についてお聞かせください。

川添教授:金融環境やその背景にある経済環境や社会環境における変化に応じ、人々が豊かな社会生活を送ろうとした場合に必要となる金融リテラシーの内容は当然のことながら変化します。これはリテラシー教育も変化していかなければことを意味しています。変化を事前に予測することができない以上、いわゆる「学び直し」の機会を増やし、アクセスしやすくしていくことが重要になります。

もっとも、環境が変化しても、たとえば、複利の概念、割引現在価値で考えること、リスクとリターンの関係といった金融リテラシーの基礎は変わらないのも事実です。基礎の応用力を高めていくために教育内容を工夫していくことも一段と必要になっています。

様々な学生への金融リテラシー教育の工夫

ー 金融リテラシーの教育では、異なる学習スタイルや様々なバックグラウンドを持つ学生に対応することが求められます。そのための工夫や配慮すべきポイントについて教えていただけますか?

川添教授:さまざまな学習スタイルやバックグラウンドを持つ学生に対応するためには、すべての学生に共通して必要となる基本的な金融リテラシーとは何かを見失わないことが重要です。必要となる配慮は千差万別で、これを意識しすぎるといわば「木を見て森を見ず」になってしまいます。

リテラシー教育では、リテラシーの共通基盤を説明した後に、これを理解し、応用するための演習を繰り返すことになりますが、共通基盤が明確であれば、それをどのような演習を通じて身に着けさせるかを工夫できると考えています。

ー 本日は貴重なご見解ありがとうございました。

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